ガンダムビルドダイバーズRe:RISEが広げたHATENAの解釈 ───何のために泣いたんだ?
つい先日 ガンダムビルドダイバーズRe:RISEが最終回を迎えましたね
ありがとう......(成仏)
ガンダムビルドダイバーズの続編にあたる今作は 最初こそ不穏なムードを漂わせていたものの 誰もが幸せになれる完璧なラストを提示してくれました
前作キャラの掘り下げも抜かりなく 俗に言う伏線回収の巧みさには良い意味で言葉を失いましたね
そんなガンダムビルドダイバーズRe:RISE(以下 Re:RISE)を構成する要素の一つであった 5人組ロックバンドPENGUIN RESEARCHによるオープニング「 HATENA 」ですが 筆者はこの楽曲こそRe:RISEという作品における立役者であったと感じています
なぜかと言うと オープニングに留まらず挿入歌としても使用されたこの楽曲は シーン毎に新たな顔を見せてくれるんですよね
Re:RISEという作品の紹介や作品と絡めた歌詞考察は以前の記事で語りつくしたため 本記事ではそんなシーン毎の楽曲解釈について語っていこうと思います
- 奮起の唄
PENGUIN RESEARCHといえば「 敗者 」の目線で紡がれる歌詞が印象的ですが「 HATENA 」も例に漏れず 正解が導き出せない敗者による模索を唄っています
Re:RISEの主人公であるクガ・ヒロト(以下 ヒロト)もトラウマにより自らを模索しているため かなり作品に寄り添った楽曲と言えますね
「 HATENA 」がオープニングとして起用されたのはRe:RISEの第15話から この時点でヒロトはトラウマを克服できておらず 辛うじて闘えている状態でした
以前の記事でも述べたとおり この楽曲は本来 第15話前後における弱気なヒロトの唄であると解釈してよいでしょう
印象的なフレーズである「何のために泣いたんだ? 何のために捨てたんだ?」はトラウマに対する後悔を表しており Cメロの「(それでも)終わらせないことを選んだのは僕だろう?」ではそんな後悔が混じりながらも自らを奮起させる様子がうかがえます
- 決意の唄
ここからが「 HATENA 」の本領発揮です
転機となるのはRe:RISEの第19~22話
敵を束ねるAI「アルス」との対峙によりトラウマが再びよみがえったヒロトは 戦闘後に自らの過去を語りはじめます
その過去とは パートナーともいえる存在であった少女「イヴ」を半ば自らの手で殺めたというものでした
その状況下ではイヴの身を犠牲にするという選択肢しかなかったものの 彼女を殺めたという事実はヒロトに深い傷跡を残します
加えて ほぼ同じ状況に置かれた前作主人公「ミカミ・リク」が少女の救出に成功したことも相まって ヒロトは立ち直れなくなりました
そんな彼ですが 家族・親友にすら包み隠してきたトラウマを仲間に話せたこと その過去を踏まえて仲間が励ましの言葉を贈ってくれたことで徐々にトラウマを克服していきます
その矢先 敵を束ねるAI「アルス」からの洗脳を受けてヒロトたちに刃を向けたプレイヤー「シドー・マサキ」の容態が急変
洗脳を解かなければ彼は最悪の場合死に至るという状況に置かれました
マサキとの直接的な関わりがないヒロトですが この状況において彼はマサキの救出を選択します
ヒロトたちと敵には圧倒的な戦力差があり 敗北が死に直結するにもかかわらず彼がこの選択をした理由は「もう誰も失いたくないから」というものでした
パートナーの死を乗り越えんとしているヒロト 彼は過去への後悔から今を生きる上での正解を導き出したのです
そんな彼を後押しするように 第22話で挿入歌として流れ始める「 HATENA 」
「何のために~」には過去への後悔だけではない 今泣かないために 今捨てないために という心情が描写され 「(それでも)終わらせないことを選んだのは僕だろう?」は後悔混じりの奮起から「誰も終わらせない」という決意に代わるんです
- 懐疑の唄
奮起 決意と来て 懐疑の唄?となっている方がいるかもしれませんが 本項における懐疑とは主人公であるヒロトが抱くものではありません
「もう誰も失いたくない」という正解を胸に ヒロトたちはついに敵を束ねるAI「アルス」との最終決戦に臨みます
ヒロトたちと度重なる闘いを繰り広げてきたアルスですが 彼は古人によって生み出された 惑星の環境維持を目的としたAIであり 惑星へと新たに住み着いた獣人たちを惑星の不純物として排除していました
その様は環境維持という信念をもとに殺戮を繰り返す 本来意味するところの確信犯であると言えます
しかし彼も根底には善の心があり 今は惑星の不純物を見誤っている状態であると知ったヒロトたちは AIであるアルスの停止ではなく 救出に向けて動き出しました
最終決戦においてヒロトたちは敵部隊の殲滅に成功し アルスが有する殺戮兵器「衛生砲」の破壊へと移ります
そんな中で流れ始める「 HATENA 」
前述した決意の唄として機能するこの楽曲ですが 何のために泣いたんだ?というフレーズの前にある演出が挿入されることで その解釈は全く別のものとなります
そのある演出とは
敗北を悟ったアルスが涙を流す
というもの
この瞬間 「 HATENA 」はヒロトの唄ではなく アルスとヒロトの唄になるんです
アルスの目的である惑星の環境維持は 別世界へ旅立った古人たちが再びこの惑星で生きられるようにという願いを込めて行われていたものであり 裏を返せばアルスは古人たちの帰りを信じている状態でした
しかしながら古人たちが帰還することなく何百年も経過したことで アルスには若干の懐疑心が芽生えます
ヒロトたちの説得 そして自らの敗北によってその懐疑心は頂点に達し 存在意義を見失ったアルスは涙を流したのです
そんなアルスをヒロトがどのように救出するのかは本編を見ていただけると幸いです(というかこの後名シーンが多すぎて書ききれない)
- あとがき
以上 個人的に感じた3つの解釈をまとめさせていただきました
ガンダムビルドダイバーズRe:RISE 開始当初は自らを「完璧なヒロト」と名乗っていたアルスが 最終的には仲間の支えを受けたヒロトによって打ち負かされるという展開からもわかる通り アルスとヒロトの根底は同じだったわけですが
そういったキャラクターの対比構造を演出によってタイアップ曲に付加するという本作品の職人芸には大変驚かされましたね
また 完璧なタイミングと演出で「 HATENA 」を流したスタッフに目を向けがちですが「 HATENA 」という楽曲でなければここまで本作品と嚙み合うことはなかったと思います
アーティストが完璧な曲を提供してアニメスタッフが完璧な使い方をする
「 HATENA 」とはお互いがお互いをリスペクトしたからこそ生まれた完璧なアニタイであるわけです
何が言いたいかというと
PENGUIN RESEARCHとガンダムビルドダイバーズRe:RISEとかいう神が......w
(おしまい)